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文化庁月報
平成24年5月号(No.524)

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連載 「言葉のQ&A」

「確信犯」の意味

文化部国語課

 「彼,ちょっとした出来心でカンニングしたなんて言っているけど,きっと確信犯だと思うわ。」
 「確信犯」という言葉は,日常生活の中でも気軽に用いられています。しかし,本来は,ある種の犯罪,あるいはそれを行う人を指す言葉だったのを御存じでしょうか。

  • 問1 「確信犯」とは,本来どのような意味なのでしょうか。
  • 答 政治的・思想的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる犯罪行為,又はその行為を行う人のことです。

 「確信犯」を辞書で調べてみましょう。


「日本国語大辞典 第2版」(平成12〜14年・小学館)

確信犯  [名] @法律で,政治的,道義的,思想的,宗教的な確信に基づく義務感または使命感によって行われる犯行。政治犯,思想犯などと呼ばれるものがこれに当たる。 A俗に,トラブルなどをひきおこす結果になるとわかっていて,何事かを行うこと。また,その人。

「明鏡 第2版」(平成22年・大修館書店)

確信犯  [名] @政治的・思想的・宗教的な信念に基づいてなされる犯罪。また,その人。自らの行為を正しいと確信してなされる思想犯・政治犯・国事犯など。 A〔俗〕悪いこととわかっていながら,わざと行う発言や行為。また,それを行う人。「―的発言で大臣が辞任する」→@と同様,その背後には最終的に自らが正しいという確信がある。

「岩波国語辞典 第7版 新版」(平成23年・岩波書店)

確信犯  政治的・思想的または宗教的信念に発して,それが(罪になるにはせよ)正しい事だと確信して行う犯罪。→1990年ごろから,悪いとは知りつつ(気軽く)ついしてしまう行為の意に使うのは,全くの誤用。

 ここに挙げた辞書は,それぞれ,政治的・思想的・宗教的な信念に基づいて行われる犯罪という意味を取り上げています。「日本国語大辞典」と「明鏡」では,俗に用いられる用法も挙げられていますが,「岩波国語辞典」は,この俗用を「全くの誤用」としています。

  • 問2 「確信犯」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を教えてください。
  • 答 本来の意味である「政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」を選んだ人の割合よりも,「悪いことであるとわかっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」を選んだ人の割合が41ポイント上回るという結果でした。

 平成14年度の「国語に関する世論調査」で,「そんなことをするなんて確信犯だ。」という例文を挙げて,「確信犯」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。)

〔全体〕

(ア) 政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪
又はその行為を行う人
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16.4%
(イ) 悪いことであるとわかっていながらなされる行為・犯罪
又はその行為を行う人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57.6%
(ウ) (ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  3.9%
(エ) (ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  3.3%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  18.8%

〔年齢別グラフ〕

確信犯

 全体では,本来の使い方とは違う(イ)「悪いことであるとわかっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」を選択した人の割合が57.6%と,本来の使い方である(ア)「政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」を選択した人の割合(16.4%)を41ポイント上回っています。年代別のグラフでも,全ての年代で(イ)「悪いことであるとわかっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」を選んだ人の割合が明らかに多くなっています。また,60歳以上では35%の人が「分からない」と回答しているのも特徴的です。

 「確信犯」は,法律に関係する学術用語として,政治的・思想的・宗教的な信念に基づく犯罪行為やその行為者を指して使われ始めたものです。しかし,このような犯罪行為は,その信念の内容に関係なく,一般には「テロリズム」や「テロ」などと呼ばれることが多くなっており,「確信犯」という言葉を当てること自体が少なくなっています。
 一方で,この言葉の「悪いと分かっていながら,犯罪行為をする」という部分だけを捉えて,冒頭の例のように,「犯罪」ではないような事例にまで当てはめる用い方が広がってきています。本来は,揺るぎない政治的・思想的・宗教的信念に基づき,あえて行われる犯罪行為を「確信犯」と呼んだのですが,「信念」というほどではない,何らかの「意図」を達成するために行われる犯罪にも,また,必ずしも「犯罪」にならないような,ちょっとした「悪さ」を指す意味でも,使われるようになってきたようです。
 このように,ふだんから気軽に使われるようになった言葉を,本来の「政治的・思想的・宗教的な信念に基づく犯罪行為及びその行為者」という意味で用いると,かえって違和感を覚える人もいるでしょう。新しい使い方が広がっていくことで,「確信犯」が本来の意味で用いられることは,更に減っていくように思われます。

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